7月19日ジェトロ本部で行われたウリュカエフ経済発展大臣の講演を聴取した吉田顧問よりの寄稿文を掲載します。
*配布された資料を参考までに提供します。「
ロ日経済関係発展のための具体的課題」pdf.
ロシアレポート 7
ウリュカエフ経済発展大臣の報告をきいて 吉 田 進 2016.7.22)
7月19日にジェトロ本部でウリュカエフ経済発展大臣の報告を聞いた。経済発展省は、日本でいうと昔の経済企画庁に等しい。大臣はモスクワ国立大学経済学部の卒業生で、経済学博士(ピエール・マンデス・フランス大学)である。活動の初期に移行期経済研究所の副所長を務めた。
講演の時間が30分と限定されたので、ウリュカエフ大臣は配布された資料には一切触れず、
ロシア経済と日ロ経済関係について所見を一気に述べた。
「ロシアは、極東に優先的社会経済発展区域(TOR)を設け、ウラジオストクを自由港にし、投資環境をかなり改善した。しかし国内の投資家は限られている。投資項目も既存の産業分野の重複となる。あるプロジェクトの投資があっても、その前後のサプライチェ-ンが出来上がらない。 これを克服するには、外資の導入が必要だ」
ウラジオストク工場でマツダが生産品目をエンジンに切り替えた時に、まさにこの問題に遭遇した 。マツダは、対策の一環としてアジア各国にある自動車工場をウラジオストク工場と結びつけた。大臣は、この経験も含めて発言したのだろうか。
「日ロ関係では、貿易がここ数年来増大してきた。しかし、従来からの商品拡大は限界にきている。今後の展開には、先進技術を基盤とした投資が必要である」
たしかに対日輸入では、石油、天然ガス、石炭、非鉄金属、木材、水産物、対ロ輸出では、自動車、建設機械、機械類と商品的に限られている。
「このような状態に日本側も氣付き、
安倍首相はプ-チン大統領に8項目の経済協力プランを提案した。<下段【参考】覧参照>
プ-チン大統領は、これを好意ある提案として受け止めた。私は、今回この提案の具体化のために来日した。今日、経団連・日ロ経済委員会の朝日委員長と意見交換をした。また経済産業大臣とも本件で会談した」
「サンクトペテルブルグでの国際経済会議では、プ-チン大統領は、民間の投資を妨害するような事はあってはならないと発言した。この発言がきっかけで、シベリアの石炭を極東に運ぶためのバム鉄道の強化が日ロ間の話題となった。インフラ整備は、当面重要な課題である」
5月16-18日にトルト-ネフ副首相が訪日した時に、サハリン州、ハバロフスク州の知事が随行し、日本との関連プロジェクトの進展を図った。具体的にはハバロフスク市の日揮の大型温室栽培、双日・羽田空港(株)による国際空港の建設、サハリン州の三井物産との天然ガスの新しい開発案件などである。その底辺には投資問題が横たわっている。
ロシアNIS貿易協会の代表団が、7月初旬にサンクトペテルブルグを訪問し、ガリュシカ極東発展大臣と会談した際、同大臣は極東の漁業加工基地に投資をしたら、魚の漁獲枠確保も可能という話をした。これは朗報である。
「
安倍首相は9月にウラジオストクを訪問される。
それまでに8項目の内容を確定しなければならない。12月には、プ-チン大統領も訪日する」
NHK石川一洋解説委員のウリュカエフ大臣への取材(NHK BS1 7月20日)で同大臣は、プ-チン大統領は安倍首相の8項目の提案を好意的に受け止め、その実施を同大臣に任せたと発言した。
「12月にプ-チン大統領の訪日は可能か」との質問に、同大臣は「可能だ、問題は内容の充実だ」、「
経済関係が進展すると信頼関係が生まれ、決断しやすくなる」と答えた。また大臣はプ-チン大統領と安倍首相の好関係は、日ロ関係改善の保証となる、経済的基盤の強化は、人道的な問題、二国間問題の解決に寄与すると、平和条約締結を念頭に入れた回答をした。
人道的な問題には、日本の旧島民の帰省問題、ロシア島民の残留・帰国問題等が含まれる。
これほど端的に、プ-チン大統領、8項目の経済協力プランと平和条約締結を関連づけて明確に説明した指導者はいない。これは石川解説委員の含蓄ある質問による所が多い。
実感した事は、
ロシアは、経済法則に則って極東の発展に日本の投資を求めている事である。日本を単なる貿易相手国ではなく、共同事業のパ-トナとして考えはじめている。日ロ間では貿易から投資への転換期がきているのではないか。
ロシアの一連の法律の制定は、日本の対岸にあるロシアの膨大な地域の鉄道、道路、港湾を含むインフラ、日本の需給と関連した漁業・農畜産業、その他関連産業を日本の主導下で発展させる条件を生み出している。ロシアの連邦政府もそれを容認している。これらの変化を、日本の企業経営者は過去のロシアに対する先入観で、見過ごしているのではなかろうか。
この転換を促進するには、提案された
8項目の内容の充実化が極めて重要だ。そのためには、地方産業・中小企業を含む各関連企業の積極的な参加が必要である。1986-88年のゴルバチョフ大統領の「新思考」時代に北海道だけでも290社の日ロ合弁会社が存在した。その後、ソ連邦の崩壊、北方領土返還のための政経不可分政策が出される中で、これらの合弁企業は衰退し、企業全体の活動は収縮した。
投資については、常にリスク・ヘッジが問題となる。民間企業が持っている潜在的活力を回復させ、積極的に投資に参加するには、
国際協力銀行や日本政策投資銀行などの一層開放した政策と融資メカニズムを創る事が強く望まれる。
/以上
【参考】
日露8項目経済協力案件とは:
1)健康寿命の伸長、2)快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市づくり、、3)中小企業交流・協力の抜本的拡大、4)エネルギー、
5)ロシアの産業多様化・生産性向上、6)極東の産業振興・輸出基地化、7)先端技術協力、8)人的交流の抜本的拡大、の8つ
(外務省より)